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《愚見数則》8 知らないと大損する夏目漱石の処世訓

愚見数則の第8回です。

 

原文

平時は処女の ごとくあれ、変事には脱兎だっとの如くせよ、坐る時は大磐石だいばんじゃくの如くなるべし、但し処女も時には浮名うきなを流し、脱兎まれには猟師の御土産おみやげとなり、大磐石も地震おりは転がる事ありと知れ。

小智しょうちもちいる事なかれ、権謀けんぼうたくましふする勿れ、二点の間の最捷径さいしょうけいは直線と知れ。

権謀をもちひざるべからざる場合には、おのれより馬鹿なる者にほどこせ、利慾りよくに迷ふ者に施せ、毀誉きよに動かさるゝ者に施せ、じょうもろき者に施せ、御祈祷ごきとうでも呪詛じゅそでも山の動いたためしはなし、一人前の人間が狐に誤魔化ごまかさるゝ事も、理学書に見ゑず。

 

勝手に現代文

なにもないときは処女のようにおとなしく弱々しく,危機の時は逃げるウサギのようにすばやく動け。座る時は大きな岩のようになるのが良い。ただし,処女もときには悪い評判が立ち,すばしこいウサギもまれには猟師のおみやげになり,大磐石も地震のときには転がることがあると知っておけ。

浅知恵を用いるな。自分に利益をもたらすために策略を用いるな。二点の間の最短距離は直線であると知れ。

策略を用いなければならない場合には,自分より馬鹿な者に施せ。利益や欲望に迷う者に施せ。悪口や褒め言葉で動かされる者に施せ。情にもろい者に施せ。お祈りや呪いでも山が動いた例はない。一人前の人間がキツネに化かされる事も理学書で見たことはない。

 

「平時は処女の如くあれ、変事には脱兎の如くせよ」 という一節は,"孫子・九地篇” の「始如処女 敵人開戸 後如脱兎 敵不及拒」(始めは処女の如くにして、敵人、戸を開き、後は脱兎の如くして、敵人、拒ぐに及ばず)からの引用です。

相手をあざむくための方策としてそんな引用を紹介しながら,とはいえ万事が兵法書のとおりにうまく行くとは限らないからねと説きます。

 

「二点の間の最捷径は直線と知れ」・・・こずるいことを考えるよりまっすぐ堂々と進んだほうが物理的にも目的地へは近いということですね。このフレーズの語呂が良いので時折頭の中で繰り返していたら憶えちゃいました。

エイヤァ的な決定をしてしまって開き直るときなどにとても便利です。

 

そのあとの文章でも,とかく自分本位の感情に流されがちなことを戒めて,できるだけ論理的に行けよと諭してくれます。