《愚見数則》9 知らないと大損する夏目漱石の処世訓
愚見数則の第9回です。
原文
人を
勝手に現代文
人を観なさい。金時計を観てはいけない。洋服を観てはいけない。泥棒は我々より立派な衣装を身にまとっているものだ。
威張るな。気に入られようとするな。腕っぷしの弱い者は,用心のために長い棒を持ちたがり,借金のある者は酒を勧めて貸し主をごまかすことに努める。みな自分に弱みがあるからだ。人徳がある者は,威張らなくても人は敬い,気に入られようとしなくても人が愛す。太鼓が鳴るのは中身がないからだ。女のお世辞が良いのは腕力がないからだ。
トータルで人を評価すべきだと言っています。見た目だけで判断してはいかんよと。
僕はあまりお洒落が得意ではないので周囲を不愉快にさせない程度の清潔感(ビミョーな言いわけですね)をと思っていましたが,見た目がパリッとしている人(ビジネススーツにポケットチーフをあしらっているような・・・)は仕事もできそうに見えるのか,好印象を持たれる割合が高いような気がします。
後ほど出てくる一文ですが,「理想が高い」という風に見えるのかもしれません。
ですからスーツに黒スニーカーで寝ぐせというような後輩には,仕事のパフォーマンスで見劣りするようなことがないんだから,見た目にも気を遣わないともったいないよぉなどとアドバイスしたことがあります。
実は僕自身が,ポケットチーフをあしらいコロンの香りがする極楽鳥的な見た目の人と一緒に仕事をすることにしたものの,あまりの計算高さとハリボテ感のギャップにがっかりした経験もあるので,誠実なのに見た目に気を遣わない人には好感が持てる反面,心配にもなります。
・・・なんて,極楽鳥だなんてディスってたら人徳なんて積めるはずもないですが・・・。
前の回で ”孫子” の引用があったので,解説本を買って読んでみました。
そのなかの ”将軍の気質” が招く危険について書かれた部分(第八・ 九変篇・ 九)に,
「決死の覚悟を持てば殺され,生きることに執着すれば捕虜になり,短気は罠にはまり,潔さを求めると辱められ,民を気遣うばかりだと情に煩わされる」
とありました。
戦時の将軍に限らず,生きていくうえであまりに清廉で高潔だと,本当に大事にしているものも守れなくなる可能性があるという極めて現実的なことが書いてありました。
高潔で信念に一貫性のある頼もしい性格も,それはそれで災いを招くことがあるという戒めです。
時代劇で恋人を人質に取られ刀を捨てさせられて,絶体絶命どうする主役の人・・・というようなことですね。
劇の終盤で敵の一味をもう少しで退治できそうなところで観衆の心を揺さぶる定番の構図です。
時代劇の場合,そんな見せ場は主役限定なので,そこで人質もろとも死んじゃったりすることはないんですけれども,まさしく孫子の言うように,主役の潔さと情の厚さがアダとなって観衆をドキドキさせる重要な山場です。
夏目漱石も相手が中学生ではなく,もう少し大人だったら孫子のこんな部分を引用してたかもしれないですね。
たまには人の悪口も言わないと善人ぶってたらつけ込まれますので・・・なんて・・・言い訳でした。
僕のからだのおよそ半分くらいが悪口でできています。