《愚見数則》14 知らないと大損する夏目漱石の処世訓
愚見数則の第14回です。
原文
世に悪人ある以上は、
勝手に現代文
損得と善悪を混同するな。真率(まじめで飾り気がない)と浮跳(軽々しくふらついている)とを混同するな。温厚と怯懦(意気地なし)とを混同するな。磊落(度量が広く細かい事にこだわらない)と粗暴とを混同するな。臨機応変に種々の性質を見抜け。性質が一つあって二つない者は天性の才能に恵まれているとはいえない。
世の中に悪人がいる以上は,喧嘩せずに済むということはないだろう。社会が完全にならない間は,不平や騒動をなくすのは難しい。学校も生徒が騒動を起こすからこそ徐々に改良されるのだ。無事平穏はおめでたいことに違いないが,時として心配すべき現象である。このように言ったからとて,決して諸君をそそのかしているのではない。無闇に乱暴されてはとても困る。
この回の文中にはわかりにくいところがあり,いろいろ調べてはみるものの決定的な解決には至っていません。
いきなり言い訳で恐縮です。
冒頭では,人と接するうえで,浅く一面的な見方をすると見分けがつきにくいことを列挙し
「臨機応変によく見極めて,よく似た性質を混同するなよ」
と戒めていることは確かのようです。
わからなかったのは
「一有つて二なき者は、上資にあらず」
という一文です。
二つの性質を対比させている前の文の流れを受けるならば,
「このような似かよった二つの性質をしっかり吟味して見抜いたうえで,もしもそのうちの一つしか性質がない者ならば・・・」
という意味だろうか,といまの段階では思います。
その次の ”上資” がまたわかりません。
”上等な資質” というようなものでしょうか。
"天から授かった才能" というような意味でしょうか。
いまのところ後者を採用して勝手に現代文に入れています。
後段では生徒がもめ事や騒動を起こすことで組織が改善されることもあり,波風が立たないのも憂うべきことだと言っています。
前回の「何事も控へ目にせよ、奥床しくせよ」 という調子とは対になっている感じがいたします。
生徒の血気盛んな様子を肯定的にとらえることでバランスをとった感じでしょうか。