《言う者は知らず知る者は言わず》 じゃぁOODAループなら使えるのか? その5
ようやくOODAループの前提や背景のところに・・・と言いながら,長いあいだ沼にはまっておりました。
どうやらボイド大佐が Orient・Obseve・Decide・Act というプロセスを図示するもとになった考えを探るにあたっては,
◆”焦点” ”意識共有” ”肌感覚” "権限委譲" というような概念
が大きくかかわっていそうだ・・・ということがおぼろげに分かってきて,つぎつぎに調べたいことが増えていったからでありました。
OODAループの図のどこにもそんなのなかったじゃないの・・・
大変なものに手を出してしまったあぁぁぁぁ・・・
いまさら後悔してもだめです。
変に頑固な一貫性をGenetic Heritageとして父母から受け継いでしまったことを少し恨めしく思ったりしています。
英語は得意じゃないと言ってるのにぃぃぃ・・・
なるだけボイド大佐自身の著作や発言を拾っていきたいという縛りをかけてしまったせいで,ネット上にある英文サイトで解説を探す羽目になりました。
でもGoogle翻訳は頼りになります。
カーソルを当てるだけのポップアップ辞書もとても便利です。
《そんな長い間どこに潜っていたかと申しますと》
そんな乏しい英語力ながらも海外サイトを検索しておりますと,すでにリンクを貼ったりもしているので,お気づきの方もおられると思いますところ,
◆Slightly East of New https://slightlyeastofnew.com/
というサイトに到達しました。
ボイド大佐の著作がたくさん収蔵されており,関連する論説も多数掲載されていますので,最近はこれを見る時間がとても長くなっており,ここに潜んでおりました。
ボイド大佐の著作は,そのサイトの表題のすぐ下にあるメニューの右から2番目にある
◆Articles https://slightlyeastofnew.com/439-2/
にズラッと並んでいます。
以前にご紹介した ”The OODA "Loop" Sketch” が書かれた
◆The Essence of Winning and Losing
もここにあります。
《OODAループの位置づけ》
まずは,ボイド大佐の思考のなかで,OODAループがどのような位置づけになっているのかをどうしても知っておく必要があると感じました。
これまで何度か繰り返して発信してきたように,”OODAループ” だけが万能特効薬として独り歩きする風潮をあおることは,きっとあの ”PDCA趣味者” の仕業と同じ結果を生み出すでしょう。
これまでもおぼろげながら分かってきていたようにOODAループ自体は,それさえ手に入れば無敵というようなアイテムではありませんでした。
ただ,それを高速で処理することで常時変化する事象に適切に対処することができるという性格を帯びていました。
そんなこんな理由から,まずはボイド大佐の著作に書かれていたことのなかからわかった
◆”OODAループの位置づけ”
についてご紹介しておきます。
さきほどもご紹介した ”Slightly East of New” というボイド研究のサイトのArticlesのなかをクロールしておりますと,
というボイド大佐の著作に行き当たりました。
その ”コンフリクト(戦い・衝突)のパターン(類型)” では,ボイド大佐が集積した歴史上のいろんな紛争の分析結果が列挙されるとともに,勝敗を分けた要因などに関する考察が詳細に記されています。
それは
•出発点 •過去のスナップショット •コンフリクトのカテゴリ •統合 •アプリケーション •まとめ •エピローグ •出典
という項目で構成されていました。
また,ボイド大佐はこの著作の使命について,
•道徳的 - 精神的 - 物理的なコンフリクトの本質を明白にすること
•成功した作戦のパターンを見分けること
•戦術と戦略を一般化するのを助けること
•大戦略の基礎を見つけること
を挙げています。(2ページ目に書いてありました。)
《戦わずして勝つ》
特に,電撃戦(ドンパチの火力の優位さで勝つような戦闘ではなく,機動力を使って敵の混乱を招き指揮命令系統を麻痺させて勝つ戦法)やゲリラ戦(これも小さな部隊による奇襲などで敵の士気を削ぐなどして勝つ戦法)について多くのページが割かれています。
それらの本質的な意義についてボイド大佐は「戦闘を避けるため」であると言っています。
孫子にも
「是の故に百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり,戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」
という一節があり,フィジカルな戦いで損耗するのではなく,相手をかく乱して士気を下げ,戦意を喪失させるほうが上策であると提言しています。
《パターン!》
さらにここでとりわけご紹介したいのは,そのうちの
◆141ページ(PDFの表示では142/197です)の ”Pattern” という表題のページ
です。
ここでは,コンフリクトに打ち勝つための作戦を成功に結び付けるための全体像が,明確な階層をともなって書かれています。
出オチ的な図で恐縮です。
実際の記述にはこんな三角形は出てまいりませんが,国家目標から戦術まで6項目に亘る説明がなされています。
それら6項目には明らかに序列があり,階層に基づいていることが明確なので,それを僕が勝手に図示してみた次第です。
右の矢印「戦略階層では上位が下位を決定する」というフレーズも,三角形の右側部分に余白ができたので,参考として勝手に付け加えたものですのでオリジナルとは関係ありません。
出オチというのも,このエントリーのシリーズの本題になっている ”OODA” 乃至 ”OODAループ” について説明されているのは,この6階層のうちの下から2つ,つまり,
◆大戦術と戦術の2か所
でした。
下位の層に書かれているから重要ではないなどと言うつもりは全くありません。
しかし,逆に言うならば,
◆ボイド大佐がOODAループだけを至上のものとして書いているわけではない
ということはこの部分の記述からも明白であることがわかります。
《国家目標》
ボイド大佐がOODAループを高速で処理することの有用性を提唱しているのは,
◆変化する敵に対峙したときの対処のため
であり,究極的にはその戦闘に打ち勝つことにあることは間違いないでしょう。
でも,それは物理的に壊滅させるということではなく,敵の戦意を喪失させるなどして
◆戦わずして勝つ
というようなことであることが分かってきました。
これが,機動戦とか機略戦など呼ばれる戦術であるようです。
コンフリクトのパターンにおいても,先ほどご紹介したとおり,電撃戦やゲリラ戦について詳述されています。
ここで,一番上層に鎮座している”国家目標(National Goal)” に書かれていることが極めて象徴的なので,お知らせしておきます。
戦争や戦闘について書かれたものですから,普通に考えれば,「敵に勝って自国を隆盛させる」くらいの目標かと思いきや・・・
■National goal
Improve our fitness, as an organic whole, to shape and cope with an ever-changing environment.
■国家目標
変化し続ける環境に応じて形作り対処する有機的な全体の一員としての我々の適応度を向上させること
と書いてありました。
ちょっとシビレました。
表面的で刹那的な幸福追求スローガンなどのたぐいではまったくありませんでした。
戦闘がどうこうなんていうレベルの話でもありませんでした。
遠い将来にまで時系列を延長させています。
周辺情勢は未来も変化し続けるんだよと言っています。
そのうえでそれに対処しなければならないチームの一員である我々は,それに適応する能力を向上させていくことが切実に望まれていると言うのです。
ボイド大佐は,この著述でそんなことを国家の目標として掲げていることがわかりました。
なんだかんだ言っても,最終的には個人の資質のところにキューッと収まっていく感じ・・・。
PDCA趣味者を批判するにあたっての当初の違和感がここでも解消されていく心持ちがしました。
決して情緒的になっているつもりはないのですが,ここにたどり着くことができただけでもOODAループについて調べた甲斐があったなぁと思います。
さて,ここまでのところで,組織を構成する個人の ”資質や士気” に配意しない組織運営がうまくいかないことに,デミング博士につづいて,ボイド大佐も言及していたことがようやくわかりました。
木を見て森を見ないというようなことを避けるためにも,この部分は忘れないようにしておきたいと強く感じた次第でありまする。
ようやく最大静止摩擦力の呪縛が解けてきましたので,次回以降で意識共有・焦点・権限委譲・肌感覚などについても調べていきたいと思います。
恥ずかしながらちょっとした英文でも理解するのにながーくかかるので・・・焦らず・・・しかし,たゆまず。
2匹のねこの近況もご紹介したいし・・・。
新作レシピもあるので・・・。
ストレートネックと格闘しながらの次回をご期待ください。